膝の痛み、特に変形性膝関節症や関節のこわばりで悩む方にとって、整形外科でのヒアルロン酸注射はよく耳にする治療法です。関節に直接注射することで「膝の痛みが和らぐ」と言われていますが、実際の効果はどの程度なのでしょうか。今回は、膝の痛みに対するヒアルロン酸注射の科学的根拠や、その限界について解説します。
1. ヒアルロン酸注射とは?
ヒアルロン酸は、関節液にもともと存在する成分で、関節の潤滑や衝撃吸収の役割を持っています。膝関節にヒアルロン酸を注射することで、関節液の粘性を高め、摩擦を減らすことで痛みの軽減を期待する治療法です。
整形外科では特に変形性膝関節症の患者に使用されることが多く、関節の軟骨がすり減り、膝の動きが悪くなった場合に行われます。
2. 科学的根拠から見たヒアルロン酸の効果
ヒアルロン酸注射の効果については、多くの臨床試験やメタアナリシスで検討されています。
(1) 痛みの軽減は限定的
- コクランレビュー(Cochrane Review, 2015)では、変形性膝関節症におけるヒアルロン酸注射は、プラセボに比べて痛みの改善効果はわずかであると報告されています。
- 一部の研究では「短期的には痛みが軽減するが、長期的な改善は限定的」とされています。
(2) 機能改善への効果も限定的
- 歩行や階段昇降などの関節機能についても、大きな改善効果は認められないケースが多いです。
- ヒアルロン酸は関節の潤滑を補う効果があるものの、関節軟骨の再生や構造的改善にはつながらないため、膝の動き自体を根本的に改善することは難しいのです。
(3) 副作用は少ないが完全無害ではない
- 注射部位の痛みや腫れ、一時的な関節炎のリスクがあります。
- 高齢者や免疫系の弱い方では炎症反応が出やすい場合もあります。
3. なぜ効果が限定的なのか?
ヒアルロン酸注射が膝痛に限定的な効果しかない理由は、膝の痛みの原因が複合的だからです。
- 軟骨の摩耗や変形
- 関節の構造自体の変化はヒアルロン酸では改善できません。
- 筋力低下
- 大腿四頭筋や体幹筋の弱さにより、膝への負担が増えることがあります。
- 生活習慣や姿勢
- 長時間の立位、体重増加、運動不足などが膝への負荷を増やします。
ヒアルロン酸注射は「潤滑剤」としての役割に過ぎず、筋力や姿勢、生活習慣に起因する膝への負荷を改善するものではないことが、効果が限定的とされる理由です。